映画 漫画誕生 鑑賞の感想(後半ネタバレあり)

先日、「漫画誕生」という映画を観に行きました。
「漫画」という単語を生み出した日本初の漫画家、北沢楽天という人物の生涯を描いた作品です。
描かれた内容のすべてが事実に基づいているわけではないようなので、娯楽作品として受け取るのが妥当でしょうか。
今回はこの作品の感想を書きます。

昭和18年、漫画家が団結して国策に協力する『日本漫画奉公会』が設立。
日本は本格的な国策へと乗り出していた。
そんな中、一人の老人が内務省の検閲課に呼ばれた。
薄暗い小部屋に案内され、検閲官と対峙する老人。
ポツリポツリと過去の記憶を語りだしたこの老人こそが、日本漫画奉公会の会長であり、
かつて"近代漫画の父"と呼ばれ、現在に至る漫画を"職業"として確立した男・北沢楽天その人であった。

https://www.mangatanjo.com/%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%BC%E3%83%AA%E3%83%BC/

目次

1.簡単な感想(ネタバレなし)
2.細かい感想(ネタバレあり)
 2-1.役者
 2-2.演出
 2-3.ストーリー
3.まとめ


1.簡単な感想(ネタバレなし)

日本漫画奉公会が設立し、北沢楽天が挨拶するところから始まります。
時代は太平洋戦争の真っただ中で、その中での漫画の扱いや漫画かとしての生き残り、使命をどう全うしていくかということが論点になっていきます。
その中で過去を思い出す形で語られて行く楽天の人生。
ただただ絵を描くことが好きだった楽天が、ひょんなことから歴史の大きな波の中に身を投じる姿が描かれていました。

好きなことに熱中する若かりし頃の楽天は、希望に満ち溢れ、己の道を邁進していくキラキラした姿が描かれています。
その実直な性格は、映画を見ている私にはとても好感が持てました。
素直で純粋で、輝いている楽天を応援したい気持ちと共に、同時にそれが羨ましく思いました。
あれほどまでに好きなことに熱中できるその意欲と精神、それは私には無いもので、一歩ずつステップアップしていく彼が羨ましくもあり、自分の不甲斐なさに悔しくもありました。

後半にはすこしヒヤリと感じることもありましたが、それでも大きく転ぶこともなく人生を歩み切った楽天。
羨ましいような羨ましくないような、なんとかなったのでは、それともなんとかならなかったのでは、描かれた彼の人生にはちょいちょいツッコミを入れたくなるところもありましたが、最終的に行きつく先は「やはり彼も一人の人間だった」という風に私は感じました。

以下、ネタバレを含む文章になります。


2.細かい感想(ネタバレあり)

2-1.役者

お話の性質上たくさんの登場人物が出てきます。
北沢楽天役のイッセー尾形さん。
実は私にとって、名前は知ってるものの顔を知らない役者さんの一人なのです。
ですので、今回は役者さんを意識せずに作品を見ることが出来ました。
気力を失い、長い物に巻かれ、図星な言葉を言われると渋々受け入れる。
正直身近にいたらすごく接しづらい人だろうなと思います(笑)
カット内の言葉の出し方がその様子にぴったりで、言葉に詰まるところがすごくリアルでした。

そして検閲官役の稲荷卓央さん。
この映画を見るまで存じ上げなかった役者さんですが、しゃべってる言葉がものすごく聞き取りやすく、そして演技だけでなく声音からも感情や役の性格が伝わってきました。
この人は声優をやってもそつなくこなせそう、というのが私の第一印象でした。

北沢楽天の妻役の篠原ともえさんは、若かりし頃と年老いた姿を両方演じられていましたが、本当にその時の役の年齢に見えたのでびっくりしました。
年老いた時も極端な老婆メイクをしていたわけではないのですが、美貌を保ったままその年になられたような、そんなイメージでした。

他にはほんの一瞬でしたが、大臣役で出られた緒方賢一さん。
アニメ好きな私は動いてしゃべってる姿が見られて大満足です!
阿笠博士まんまやー! と、脳内ハイテンションでした。
声優つながりで言えば、劇中アニメで山口勝平さんも出ておられてこちらもテンションが上がりました(笑)

その他にも、楽天の親友、警察から逃げてた作家、楽天の弟子、東京パックの編集など、印象に残る役者さんが多かったように思います。


2-2.演出

全体的に、カメラを固定して長回しのカットが多かったように思います。
冒頭の飲み屋での侃々諤々、全編通しての検閲室でのやり取り、そのあたりは特にその雰囲気を強く感じました。
長回しゆえに会話の呼吸も伝わってくるし、セリフの応酬も作り物感が全くなく、自然な流れで本人が考えしゃべっているようにしか見えず、飲み屋のシーンは本当に気まずい空気の中で会話しているように感じました。
検閲室でも、楽天が言葉に詰まったりやっとのことで言葉を吐き出したり、それに対する検閲官の応答など、実際にやりとりが行われている、という緊張感みたいなものが感じられました。
演技のはずなのに、演技を超えたリアルな空気が混じっているようなその雰囲気がとてもよかったです。

そして唐突に始まったアニメーションのシーン。
楽天が描いた漫画のキャラクターが動きだしました。
ふと思ったのですが、もしかしたら楽天のこれらの漫画、初のアニメ化ということになるんでしょうかね?
彼の作品を詳しく知らないので断言はできませんが、もしそうだとしたらこれはすごいことですね!
ちなみにアニメーションの出来自体は正直まあまあでした(笑)

もう一つの印象的なシーンは、フランス大使館に招待されてフランスに出かけたことを、身内に劇として発表する形で表現したところ。
ここは正直、そりゃロケとなったら大変だもんねw と大変失礼な感想を持ちながら観ていました(笑)
逆説的にメタ視点で見れば、その少し前にあったアニメのシーンとか、おそらく両方のシーンのためでしょうが、これらがあることでこの作品の一つのフックになりますし、お互いの存在がお互いのシーンの存在の違和感を無くす役割を持っているように思いました。
ここで幼き手塚少年が楽天作品を読んでいたことに、私はちょっと感激してました。


2-3.ストーリー

楽天の生涯を描く作品として観始めたのに、いきなり晩年から始まってしかも太平洋戦争真っただ中の様相だったので、一体どういう展開かと思いましたが、国の期間に呼ばれて回想という体で話が進むようでした。
若い楽天は絵を描くことに夢中で、それだけ夢中になれるのも羨ましいなと、先述した通り思いました。
また同時に、若いながら文書体のような言葉遣いで友人たちと深い会話をする彼ら。当時の若者はこういうふうに会話をしてたんだろうなと考えると、自分ももうちょっと見識を深めたいなと思いました。

そして福沢諭吉に見初められたところはびっくり。
そこに出てきたライスカレーとコーヒーを物珍しそうに見る楽天は面白かったですし、それを愉快そうに眺める諭吉も茶目っ気があるなあと笑ってしまいました。

やがて風刺画で漫画雑誌を刊行して、それを月刊から月2回刊にする決断には、体調を崩して倒れないかとひやひやしましたし、弟子に描かせてなにか問題が起きやしないかひやひやしましたが、無事に乗り越えていく姿は安堵しました。

偉くなった楽天の乗った馬車を走って着いていった岡本一平に笑ってしまいました。
そして、エンディングで彼が岡本太郎の父だとしてびっくりしました。

検閲官は、実は北沢楽天の作品が好きだったんじゃないのかなと思いました。
楽天がすこし精気を取り戻して漫画の批評をやり直したとき、彼は楽天に対して再び興味を取り戻したように見えました。
そして最後に描きたいものを描けと迫った時は、そこに楽天の復活を見たかったのではと思います。
楽天が最後に妻を描いたのは、楽天にとって残ったのは妻だけだった、もといやはり妻を愛する楽天は一人の人間であり、今や何も残っていない凡夫となった、という風に解釈できます。
その絵を見た検閲官は、楽天の全盛期とは言わずとも鋭い筆致の復活を求めていたのに、出来上がった凡庸な絵に対して失望したのではないでしょうか。

最後は似顔絵を無償で描く絵描きになったようで。
そこで観た蛍が舞う外の風景は、楽天が唯一何を描いたかわからなかったという父の絵の回答だと気付いたときには、心の中で感嘆の声を漏らしていました。


3.まとめ

全体的にとても楽しく見ることが出来ました。
あまりにも大きな谷が来ない話は、観ながらストレスを感じることがないので私はそこの点はとてもよかったです。
そして北沢楽天という人物、この映画は大半が創作らしいですが、私はしばらくはこの映画の北沢楽天を彼の人物像として捉えていようと思います。
そのほうがなんとなく楽しいですから。

上映後は、初日ということもあり、監督の大木萠さんと俳優の稲荷卓央さんの舞台挨拶がありました。

舞台挨拶は写真撮影可でした


二人の出会いや役者さんたちの起用に至った経緯、監督から見た北沢楽天の捉え方などを語っていました。
上述した、この映画の話のほとんどが創作ということはこの舞台挨拶で監督が語っていたことから知りました。

そんなこんなで映画「漫画誕生」の感想記事でした。
これからもいくつかの都市で劇場公開していくようなので、興味のある方はぜひご鑑賞なさってみてください。

最新情報をチェックしよう!