先日、ロング・ウェイ・ノース 地球のてっぺん (字幕版)を鑑賞しました。
なにか映画でも見ようと思い立ち、たまたま知ってちょっと興味をもって観に行ったものなので、前知識とかは全くありませんでした。
あらすじ
ロング・ウェイ・ノース 地球のてっぺん 公式サイトより引用 https://longwaynorth.net/
19世紀ロシア。大好きな祖父が北極探検の途中消息を絶ったことを悩む14歳の少女サーシャ。 地に堕ちた祖父の汚名を晴らすべく一歩を踏み出した少女の行く先には─。
目次
1.感想(ネタバレなし)
2.冒頭18分が無料視聴できるキャンペーン
3.感想(ネタバレ有)
4.細かい感想
4-1.絵
4-2.サーシャ以外の人々
4-3.個人的にすごく良かった点
5.まとめ
1.感想 (ネタバレなし)
とてもよかったです!
主人公サーシャの祖父を思う気持ちと、その強い気持ちがゆえに周囲と起きてしまう摩擦。けどそれに屈することなく思いを持ち続ける心の強さ。
それは若さゆえに勢いがあるという言葉では片づけきれないほどの強靭さを感じました。
確かに「若さゆえ」という理由が全くないとは言い切れないのですが、それでもそれによって自分の信じた道を諦めない気概が保たれて、そこに立っていられるのは尊いことだと思いました。
そしてなんといってもサーシャがかわいい!
芯が強く、なにかに夢中になって突き進もうとするその姿と、家柄からか柔和な表情の作り方がいとしく思えました。
2.冒頭18分が無料視聴できるキャンペーン
2019年10月現在、 映画を“試食”してみませんか?キャンペーン というものが行われているみたいで、公式サイト、YouTube、ニコニコ動画、Vimeoで、冒頭18分が無料公開されているようです。
私はこれを観ずにいきなり映画館に観に行って楽しんだのですが、興味はあるけど…って方はこちらで試聴してみてみるのはいかがでしょうか?
–以下ネタバレ注意–
さて、ここからはネタバレ込みでいろいろ書いていきたいと思います。
3.感想(ネタバレ有)
まずは、サーシャがかわいい!!
上の感想でも書きましたがサーシャがかわいいです。絵柄だけ見ると今の日本の流行の絵柄ではないし、吹き替え版ではなく字幕版ではやや低めのハスキーな声優さんが声をあてているので、日本のアニメに慣れた私は一見しただけはその魅力に気付けませんでした。
けれども一人で家を出てから見せる様々なその振る舞いが、まだ大人になり切れていないながらも堂々としていて、そしてコロコロ切り替わる表情、そして笑顔が徐々に私の心を掴んできました。声質なんてただの一要素でまったく気になりませんね。
そしてその強靭な心。一人でロシアを北上して酒場で働いて船に乗って北極圏まで行く。14歳の子が単独で、周囲の大人に助力を請いながら助けられながらも、着実に自らの努力によって成長しその環境を生き抜いていく姿。
舞台が現実に即しているからか、ファンタジー作品の主人公の成長よりもそのたくましさに感嘆するばかりでした。
それゆえ、ダバイ号を探して最後の難関と思しき雪山を登り終えた後、眼前に広がる何もない氷の世界の寂寥感には言葉が出ませんでした。
メタ的にはここでそうなるかもと、そのシーンの前にすこし予想してしまった野暮な私ですが、それでもあまりの広大さに、これは船も見つからないかもとちょっと身構えました。
だからこそ、氷漬けになった祖父との再会と別れはよほどサーシャに寄り添ってあげられるかどうかで感じ方が異なると思います。
上述の場面ですこし世界観から距離を離してしまった私には、そこでの感情をしっかり受け取り切れなかったので、今でもちょっと悔しいです。
しかし最終的にそこで祖父から託された日記を頼りにダバイ号を見つけられたのは本当にほっとしました。船に乗ってからずっと邪魔者扱いされ、疫病神に昇進し、船員に命の危機をもたらしてしまったサーシャが早く報われて欲しいと思っていたので。
けどここでも私の感情は傍観者だったようで…。
サーシャの複雑な面持ちから、これは祖父の遺品でもあると気付きました。そこで確かに暮らしてここまで来た船。サーシャにしかわからない思いがあるのでしょう。
無事帰還して、エンドロールで父親と和解したときに涙腺がじんわりと。
これでようやくサーシャの心の緊張は解けたのだなと思いました。
4.細かい感想
4-1.絵
映画を見る前に予告編の動画は観たのですが、なによりも主線なしで、しわなどの影もほとんどないのが印象的です。
私が思ったのは、「すごく写実的だ」ということ。
現実には輪郭を象る線なんてないですし、背景の細かいところまでしっかりと描き込まれていましたから。
そういえば今パンフレットを見返してみて、瞳にハイライトが入っていないのに気づきました。それなのにまったく怖い印象はありませんね。
そして一番すごかったのは北極圏に入ってからの描写。
雪だらけの景色を、主線なしで、それがなにかとしっかり分かるように描かれていたこと。サーシャが祖父と出会う前のブリザードに向かっていく視点の映像。あれには嘆息が出ました。
一体どうしたらこんな絵が描けるのかと…。
そして色使い。暗い中でスクリーンで見ても目に痛い色が全くありません。
日本のアニメ映画でもそんなことはほぼないのですが、鮮やかな色が使われることもあるそれと比べて、このロング・ウェイ・ノースは暗めの色が多く使われてます。
なのに、なぜか、柔らかくて重たくなりすぎず、どこか暖かさを感じる色味でした!
(逆にブリザードのシーンはものすごく寒そう、というか痛そうなほどでした)
主線もないうえにあの色味で統一したうえで、寒暖差が出せるなんて、ストーリーももちろんのことながら、この画面作りもあとから見返したいと思ってパンフレットを買うと決めた一因でもあります。
4-2.サーシャ以外の人々
序盤の王子と両親。サーシャ視点から見れば、なぜわかってくれないのか、と憤りを感じるのも分かりますが、それぞれ王子の立場、両親の立場に立ってみれば、彼らのその振る舞いには納得できる理由があります。
まあ、王子には多少の私怨も混ざっていましたが…(笑)
そして船乗りたち。素人の子供が乗り込んで来ればそりゃあ邪魔ですよね(笑)
そしてそのせいで北極圏に行くことになり、船長の決定に反対もできないし、その理由を作ったサーシャに対し冷たいのも分かります。
そして船をなくして命の危機が迫った時の必死さ。おどろおどろしさを感じますが、極限状態ではああなるのでしょうね…。
帰る方法をなくし、あるかもわからない船を頼りに、北極圏の更に奥まで歩を進める。それも一人の子供の不確かな情報を元に…。自らじわじわと死にに行っているようなものです。
それでもそんな状況で歩き続けた彼らは、ものすごく精神的にタフだと思います。取り乱して争うような場面も描かれましたけど、それはその時点で理性を保ってる船長やラルソン、カッチのほうがすごいですよね。
そしてホッキョクグマを仕留めたときは観てるこちらとしてもほっとしました。
食糧の危機はこれで解消されたと。
あの瞬間以降、画面がすこし明るくなったように思います。それで、これは船が見つかるぞという予感がしたあの感覚は何とも言えませんでした。
そしてMVPは食堂のオルガさんですね!
気さくで豪気で、サーシャの感情に気付いて思いやり、店に置いてくれるその優しさ…。本当に聖母です。
一人で店を切り盛りしているみたいだし、それもだいぶすごい…。
サーシャはオルガさんに出会ったのが、オルガさんのお店に置いてもらえたのが本当に作中一番運がよかったと思います。
オルガさんの下で働いたことで、雑事を学んで人付き合いを学んで、それがあったからこそ船の中でロープの結び方を自習して、救護船の喪失を防ぎ、最終場面へとつながっていく。
あれがラルソンたちの船でなくてもサーシャはダバイ号までの道のりを乗り切れただろうし、逆にあれがラルソンの船でもオルガさんの下で働いてなかったらもっとひどい扱いを受けたうえ船は途中で救護船を失って引き返す羽目になったかもしれない。
オルガさんがいてくれて、最終段階まで進めるサーシャの成長の礎を築いてくれたのでしょうね!
4-3.個人的にすごく良かった点
サーシャは14歳の少女です。その子が単身旅に出て、少々ガラの悪い客の来る食堂で1ヶ月働き、何日(何ヶ月?)も男性だけの船に乗ります。
その間セクハラまがいの描写がなかったこと。それは個人的に精神衛生上すごく良かったです。
実際あったけど描写していないだけ、だとしたら最終的に船乗りたちとのあのような表情を交わす関係にはなっていないと思います。
なので実際にサーシャは、一人の人間として尊重された、ということは間違いないです。
メタ的に見れば作品の性質上あってはならないしストーリー進行の邪魔にもなるので意図的に排除はされるのでしょうが。
だとしても創作上見かける下ネタをにおわすようなセリフ一つもなかったので、とても気持ちよく鑑賞出来ました。
(カッチが紳士ぶったり、お礼はキス、とか言ったりしてますが、あれは私はジョークとして捉えることが出来ました)
5.まとめ
軽い気持ちで映画を観に行こうと思い立ち、たまたま目に留まった作品として鑑賞したのですが、思わぬ感情と感想を私に与えてくれました。
普段はよほど好きでなければパンフレット買わない私ですが、思わず帰りに購入してしまいました。
どうやら故高畑勲監督もこの作品を鑑賞してコメントを残しているみたいです。
曰く、作中いろいろ嘘がつかれているみたいですが、物を知らない私にはそれがどこなのか発見できませんでした(笑)
上映劇場、期間ともに長くない作品のようですが、気になる方は観てみてもよいのではないでしょうか。